パソコンやスマホを買っても取扱説明書が付いてこない。
付いていたとしても、「なにこれ」と感じるほどの薄さです。
※以降、取扱説明書の短縮表現として取説を使う
なぜこんな状況になっているのでしょうか。
このあたりの事情について明らかにします。
このブログは
・取説を補完するもの
・取説がないことで生まれる仕事
について関心がある方におすすめです。
まえおき
Windows 95 を会社で使い始めたころ、取説を見たことがありません。
自分用のパソコンは Windows XP からです。付いていたのは取説と言えるものではなくセッティングの説明書でした。
使い方は「できるExcel」や「できるWord」のような攻略本を買うか、知っている人に教えてもらうか、そうして覚えるしかありません。
同時期のガラケーには、取説は付いていました。
それがスマホの時代になると、取説とは言えないほどのペラペラになりました。
スマホは触っているなかで直感的に覚えよう、ということでしょうか。
誰もが普通にそうしているので、攻略本を買わなくても、聞いて触って慣れる、という感じです。
初めて自転車に乗ろうとしたときを思い出します。
付いてくるのは取説ではなく「使い方の説明書」なので、初めてでは当然乗れません。
自転車に付いてくるのは、乗れる人用の「使い方の説明書」です。
前輪ブレーキ、後輪ブレーキ、ベル、前照灯などの説明と、チェーンやケーブルへの油差しといったメンテナンス、などの説明が中心だったと思います。当然ですが「乗りこなし方」の説明はありません。
乗れない人は、誰かに支えてもらったり、補助輪を付けたりして、「乗りこなし方」を覚えるしかありません。
ハードルとなるのはソフトやアプリの説明
パソコンやスマホの場合はどうでしょう。
取説の主な内容は、扱い方の説明です。
スイッチ、アイコン、主要アプリ、基本設定、といった説明が中心です。当然ながら「使いこなし方」の説明はありません。
使えない人は、誰かに教えてもらったり、教室に通ったりして「使いこなし方」を覚えるしかありません。
とはいえ、自転車に「乗りこなし方」の説明書がないことは受け入れられるのに、パソコンやスマホに「使いこなし方」の説明書がないことは受け入れ難い、と思う人はいると思います。
家電品、映像機器、通信機器などは、詳しい取説が付いてくるので、誰もがほぼ一様に使えます。
そもそも「使いこなす」という言葉がなじみません。
これらの製品の機能は目視しながらできるので、教えやすいし確認しやすいのです。
これがパソコンやスマホとなると、完璧な「使いこなし方」に到達するのは、どこまでいってもきりがありません。
パソコンやスマホを「使いこなす」のにハードルとなるのはソフトやアプリです。
これは個人のスキルや理解力が関係することなので、誰もが一様に使えるようにはなりません。
こうして考えていくと、製品にソフトやアプリの占めるウェートが増すにしたがい取説の用途が低下していくことが分かります。
「取説」に「使いこなし方」まで担わせるのは無理ということになってくるわけです。
見えてくる取扱説明書事情
しかし、製品メーカーが取説の提供を放棄しているわけではありません。
※メーカーといってもいろいろです
取説がないわけではありません。「刷り本の取扱説明書」がないだけで、オンライン上のどこかにはあります。
※メーカーや製品によって対応に違いはある
ただ、様々な使用者に合わせると、説明にきりがありません。
ソフトやアプリの細かい説明は、とても難しくなります。
製品メーカーが、ソフトウェアやアプリケーションの全てを網羅した取説を用意するのはできないし、さらに書いてある内容の補償もできないでしょう。
とはいえ、使用者の立場に立って取説に代わる対応を工夫しているメーカーもあり、そうしたメーカーは、オンラインのサポートページを充実しています。
取説はオンラインで見てください、というかたちにして、サポートページに掲載したりしています。
「よくある質問」の形式で問題にたどり着きやすくしたり、「トラブルQ&A」を用意したりしています。
実際、ソフトやアプリの細かいところを説明するのは難しいと思います。
など想像しただけで、これは無理と思います。
対応できる方法はオンラインしかなく、「刷り本の取扱説明書」では無理です。
バージョンがアップデートされると、取説の間違いと思われたりします。
ちょっとした修正にも多額の追加費用がかかります。
このように現実を考えると、「刷り本の取扱説明書」がないことは受け入れるしかありません。
取扱説明書を補完するもの
先にあげた自転車の例でも、乗り方(乗りこなし方)はソフトにあたるでしょう。
知りませんでしたが自転車教室があるそうです。身近に行ったことのある人がいないのでどんな内容かよく分かりませんが、あるようです。
パソコンやスマホの場合もパソコン教室やスマホ教室があります。
基本のことや、ソフトやアプリの使い方(使いこなし方)を教えてくれます。
その他には、ソフトやアプリの攻略本も出ています。
製品メーカーとは違うところで仕事が生じているわけです。
そしてそこに何かしらの収益が発生するなら、新たな業態が生まれているということです。
パソコンやスマホの使い方(使いこなし方)は、多くの人がネットを使い自分で調べるでしょう。
ネット上には、メーカーサイト以外にも、取説を補完するものがあります。
使い方(使いこなし方)に関するネット記事や動画は数えられないほどあり、多くは丁寧に説明していて、かゆいところに手が届いた解説をしています。
マイクロソフトサポートやアプリのサイトを見ても分からないことが多いため、ネットに頼ることは多くなっています。
ネット記事や動画の解説は良い仕事をしています。
今や取説では解説できないスキマを埋め、補完するコンテンツと言えます。
このブログでも、パソコン設定に関しての記事をあげています。
有益な解説記事をつくり、役に立てる仕事をしたい、と思うからです。
取扱説明書の付属を止めた先駆け
取説の付属を止めたことで、よく知られているのはアップルです。
スティーブ・ジョブスは「直観的に使えるデバイス」を作ろうとしました。
取説を見なくても、触ることで使えるようになる物を出したかったみたいです。
そのあとに続くスマホたちも、この流れに乗っていったわけです。
タッチディスプレイのデバイスが出始めた時期とも一致しています。
このあたりから、取説の考え方が変わったと言えると考えます。
直感的に物を使う製品が増えていき、取説の在り方も変わっていくのではないでしょうか。
取説の付属を止めたことは、時代の先駆けであるのは間違いないでしょう。
「取説事情の変化」を見つつ対応する
流れの変化は、少し考えれば当然です。
コンピューターの機能は「マルチファンクション」が主流です。
解説しようとすると、取説は膨大になり、しかも複雑難解で広辞苑なみの厚さになってしまいます。そうなると誰も見なくなることは想像に難くないでしょう。
そのうえ、従来の「刷り本の取扱説明書」では、制作コストは上昇し、新製品の発売にも間に合わないという悪循環に陥ります。
インターネット端末が進化するなかで、スティーブ・ジョブスは「取説の問題点と弱点」に気が付いていたようです。
取説の制作サイドも大変です。
もともと取説の書き手はエンジニアではありません。
書き手の多くは一般事務職で、集めてきた資料と実機の操作をしつつ取説を作ります。
しかし実際に実機の確認時間は限られます。
新製品の完成と発売が同時なので、実機の操作をして解説の検証をすることがほぼ無理筋と言えます。
話しは飛躍しますが、SF映画の宇宙ものでは、宇宙船の操作をするクルーが「直感的な操作」をしているように見えます。
「取説事情の変化」は、おそらくそんな世界を先取りしているのではないでしょうか。
おわりに
「刷り本の取扱説明書」が付いていない製品はパソコンやスマホですが、他の製品に波及していくのでしょうか。
家電製品には「刷り本の取扱説明書」が付いています。ページ数は少なくて、見ることはそこそこあると思います。
映像機器や通信機器にも「刷り本の取扱説明書」は付いています。こちらはページ数が多く、300ページを超えてきます。
自動車にも「刷り本の取扱説明書」は付いています。多機能なモデルは、500ページを超えています。
今後、ネットワーク化が進んでゆくと、多くのものがパソコンのようになるでしょう。
将来的に「刷り本の取扱説明書」はどうなるでしょうか。
無くなっていくようにも思えます。
とはいえ、未来のことは、使い手が受け入れるか否かで違う展開になるとも言えます。
一生使わない機能もあるので、分厚い取説は邪魔とも思います。
使いたい機能の説明をネットワーク上で瞬時に呼び出せるなら「取説の在り方」は大きく変わると思います。
この先どう転ぶかわかりませんが、見守りたいと思います。
今回は、取扱説明書の話しでした。
取説について知っていることを中心に話を進めました。
この記事がご参考になりましたら幸いです。